「人権擁護法」案の廃案・根本的見直しを求める会長声明 

今国会において、「人権擁護法」案が審議入りしている。この法案は、社会の複雑化に伴い深刻化、多様化している人権侵害に対処するための提出であるとされている。

しかしながら、この目的を果たすための法案としては、以下の問題点を孕んでおり、人権救済には不十分であるだけでなく、民主主義の基礎である国民の知る権利を侵害しかねないものである。

  1.  本法案が設置しようとしている人権委員会は、法務大臣が所轄する法務省の外局にすぎず、独立性を持たない。
     法務省には、人権侵害を受けたとして救済を求める事案において、しばしばその相手方となってきた刑務所・拘置所、入国管理局等が存在しており、人権委員会がそれらを対象とする人権救済申立に対し法務省から独立して実効的にその救済機能を果たしうるとは到底思われない。
     あるべき人権擁護活動のためには、政府から独立し、実効的権限を有する国内人権救済機関がぜひとも必要である。
  2.  労働・船員関係特別人権救済に関しては人権委員会の管轄外とされ、厚生労働大臣、国土交通大臣に調査等の権限があるとされているが、これらの分野を切り離す理由は存在しないし、分野による区分は法の下の平等に反するものである。
  3. 人権委員会の判断に対する不服申立が認められていず、救済措置として不適切である。
  4.  報道機関に対する特別救済の対象である「過剰取材」等の定義が曖昧であり、民主主義に不可欠の国民の知る権利に資する報道の自由が侵害されるおそれがある。なお、近時頻出している過剰取材等による人権侵害に関しては、報道側の自己規制がなされるべきであって、国家による統制によって予防されるべきではない。

以上、「人権擁護法」案は、組織の独立性に疑問があるだけでなく、国民の知る権利・報道の自由を侵害するおそれがあると言わざるを得ない。

そこで、このように欠陥の多い法案は速やかに廃案にし、根本的な見直しを求めることを表明する。

2002(平成14)年5月21日
静岡県弁護士会
会長 塩沢 忠和

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