割賦販売法の改正を求める会長声明 

割賦販売法の改正について検討を進めてきた産業構造審議会割賦販売法分科会基本問題小委員会は、本年6月、中間整理を発表した。

同委員会が昨年6月7日付けで発表した「クレジット取引に係る課題と論点整理について」と題する報告書においては「昨今の悪質訪問販売住宅リフォーム問題や布団・呉服を中心としたモニター商法の事例を見ると、クレジット事業者の不適正与信が、こうした悪質な勧誘販売行為を助長し、被害を拡大しているとの指摘を否めない状況が窺える」とされており、中間整理においては、一定程度は消費者保護の観点に立った法改正の方向性が示されているものの、両論併記にとどまって明確な方向性が示されていない部分もある。

法改正については、現在、経済産業省内で具体的な検討が進められており、2008年の通常国会に割賦販売法の改正法案が提出される見込みとなっていることを踏まえ、当会として、以下の内容をもった法改正を求めるものである。

  1. 「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」をめざす観点から教育基本法を改正するとしている点は、教育を国家に有為な人材作りとして行うことをめざすものであって、憲法の保障する「個人の尊重」に基く人権としての教育への権利の実現を危うくするものである。
  2. 割賦販売法については、以下の内容を含む改正をすべきである。
    1. 現行の抗弁規定の効果を拡張し、割賦販売契約が契約の解除・取消等により遡及的に消滅したときは,信販会社は,販売業者と連帯して既払い金を返還すべき義務を含む無過失共同責任を負う旨を明記すること。
    2. 顧客の総債務残高が年収額の3分の1を超えることとなる新たなクレジットを原則として行ってはならない等という具体的基準による与信の総量規制を明記すること。
    3. 指定商品制を廃止し規制対象を拡大すること。
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  4. 上記改正をすべき理由は、以下のとおりである。
    1. 無過失共同責任について
       産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会における中間整理によると,信販会社の過失を前提とした損害賠償責任論と無過失を前提とした共同責任論の両論が併記されている。
       そもそも,信販会社に対する責任を明確にするべきとする趣旨は,クレジット契約が悪質な販売行為を助長する結果となっているため,これによる消費者被害を防止するためには,信販会社の購入者に対する責任を明確にするべきとする点にある。
       また,信販会社は、自らの利益を上げるためには、多くの加盟店と提携して、より多くのクレジット契約を得る必要があり,他方で悪質加盟店も信販会社の信用力を利用して違法・不当な販売をすることが可能となる構造があり,両者には一体的協同関係が認められることが信販会社の購入者に対する責任の根拠である。
       しかし,クレジット業者の過失を前提とした損害賠償責任を追及できるにすぎないとした場合,消費者側でクレジット業者の過失を立証しなければならないが,その立証は極めて困難であって,クレジット業者に対する責任追求は極めて限られた場合にとどまることになり,実効的ではない。
       そこで,信販会社の無過失を前提とした共同責任を明記するべきである。
    2. 与信の総量規制について
       まず,昨年成立した改正貸金業法では,1社当たり50万円,又は他社と合わせて100万円を超える貸付けを行う場合には,源泉徴収票等の提出を受けることを義務付け,年収等の3分の1を超える貸付けを原則として禁止するなどの具体的規制を設けている。
       ところで,クレジットも消費者の割賦払いの利便性という点で,消費者の資力の問題に帰する点は同様である。
       そこで,同じく多重債務の原因となる割賦販売取引においても同様の具体的基準を設けることが必要である。
    3. 指定商品制の廃止について
       現行の割賦販売法では,指定商品制が採られている(法2条4項)。
       しかし,取引対象品目により,法適用の有無に差を設けている現状においては,被害が多発してから追加指定することを繰り返しており,被害の根絶は永久に図られることはないと言っても過言ではない。
       他方,指定商品制を廃止することは,指定役務・指定権利については,医療費・授業料・公共料金の支払いまでクレジット取引が拡大しているため,今後も様々な役務・権利が発生することとなるので困難であるという見解もあるが,指定商品制を廃止した上で,消費者が必要とする役務・権利について,詳細な検討をするべきである。
  5. 以上のとおり、割賦販売法については、消費者保護の立場に立って改正されることが求められている。当会は、県内外の関係各団体個人に対し、上記方向での法改正を求める協力共同を呼びかけるものである。

以上

2007(平成19)年11月29日
静岡県弁護士会
会長 杉本 喜三郎

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