教育基本法案の採決に反対する緊急会長声明

政府・与党は,今国会に上程されている教育基本法「改正」法案につき,実質的かつ十分な審議を尽くすべきであると主張する野党の反対にもかかわらず,近日中に採決に踏み切ろうとする意向を表明している。

しかしながら,折しも,今国会の開会と時機を合わせるかのようにして,教育を巡っては,きわめて深刻かつ重大な問題が噴出する状況にある。

言うまでもなく,その一つは,陰湿な「いじめ」に苦しむ子ども達が,学校や教師あるいは教育委員会から何ら救いの手を差し伸べられることなく,また時には,子ども達を守るべき教師すらも「いじめ」に加担するという信じ難い事態にさえも直面し,思い悩んだ末にただ救いのない絶望のみを抱き,尊い生命を自らの手で絶つという余りにも悲痛な出来事が,立て続けに起こってしまったことである。

また,全国の高等学校においては,先般の学習指導要領の改訂により必修とされた科目を,意図的かつ組織的に生徒たちに履修させないということが常態化していたことが発覚し,そのため,大学受験等を間近に控えた生徒たちが,卒業する為には長時間の補習を受けなければならないという過酷な負担を強いられている。

これらの問題は,近時の教育改革が,その掲げる理念とは裏腹に,教育現場で実際に教育に携わる教員に対し,また,適切な教育を受けることにより健全な成長や発達を保障されるべき子ども達に対し,あまりにも深刻な負担や矛盾を押しつけてしまっているという現実を,明らかに示唆するものである。

そして,今次の教育基本法「改正」に関連して,内閣府が各地で開催したタウンミーティングにおいては,文部科学省と内閣府の関与のもと,特定の質問を予め提示した上で発言者を確保するなどという,「世論操作ではないのか」という非難を免れる余地のない事態すら発覚している。さらには,この問題に関する内閣府並びに文部科学省の釈明は,およそ,自らの犯した過ちの重大性すら十分に自覚しようとはしないものであって,崇高な教育の使命を担うべき者として,余りにも嘆かわしいものといわざるを得ない。

そのような状況において,今,まさに行われなければならないことは,教育基本法「改正」法案の採決を強行することではない。

まずは,時機を合わせて明らかになったきわめて深刻かつ重大な教育問題について,その背景や原因がつぶさに検証されなければならない。そして,近時「教育改革」の名の下で行われてきた種々の取り組みが,現実において,子ども達や学校現場に対してどれ程の負担や犠牲を強いているのかを直視し,今次の教育基本法「改正」法案を含めた昨今の「教育改革」の方向性について本当に誤りはないのかを,原点に立ち戻って改めて確認しなければならないのである。

今,現実に噴出している種々の問題を何ら解明しないままに,また,将来において真に必要とされる教育のあり方について慎重かつ実質的な討議を尽くすことのないままに,教育基本法という教育の根幹を「改正」することは,明らかに重大な誤りである。そして,その「誤り」が犯されてしまった場合には,それによって被害を被るのは,将来の我が国を担うべき子ども達に他ならない。

当会では,先にも,教育基本法「改正」法案の孕む深刻かつ重大な問題を指摘した上で,教育基本法の「改正」には反対の立場を表明しているところである。

(本年8月30日付会長声明)

しかるに,今国会における政府・与党の審議方針は,余りにも拙速かつ強行的なものであるため,改めて教育基本法の「改正」,並びに,今国会における同法案の採決に対して,反対の意を表明する。

2006(平成18)年11月15日
静岡県弁護士会
会長 興津 哲雄

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