「共謀罪」法案に重ねて反対する会長声明

当会は、今国会で審議中の「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律」案に含まれる「共謀罪」について、すでに2005(平成17)年6月23日及び2006(平成18)年3月22日にこれに反対する会長声明を出しているところであるが、今回の与党修正案についても、以下の見過ごすことのできない問題を有しているので、重ねて「共謀罪」の新設に強く反対するものである。

共謀罪とは、(1)「長期4年以上の刑を定める犯罪」について、(2)「一定の団体の活動として」、(3)「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の、(4)「遂行を共謀した者」を、(5)懲役5年以下の刑罰に処し、(6)犯罪の実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽しまたは免除する、という内容のものである。

これは、共謀だけで犯罪が成立し、実行行為なくして、すなわち意思を通じる行為そのものが処罰の対象となることを意味している。

  1. 思想処罰の危険性
     修正案では「共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合」にはじめて共謀罪を処罰できるとし、「適用に当たっては、思想良心の自由を侵すことがあってはならず、かつ、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない」との規定を設けている。しかし、「犯罪の実行に資する行為」は犯罪の準備行為よりもはるかに広い概念であり、この要件を付したとしても限定とはならないし、思想良心の自由を侵害してはならないという注意規定が実際の運用に殆ど影響がないことは、これまでの同様の規定の運用からして明らかである。修正案は、単に修飾的な語句を付加したに過ぎない。
     そもそも近代刑法は、法定された要件を具備しなければ犯罪はなく、刑罰もないという「罪刑法定主義」、客観的な犯罪行為があってはじめて処罰できるという「行為主義」の原則を確立し、国家による恣意的な刑罰権の発動を抑止し、人権を保障してきたのである。
     ところが、この法案では、「共謀」という極めて曖昧な概念にとどまるものを処罰対象としており、上記の近代刑法の原則に反していると言わざるを得ない。そればかりでなく、予備行為さえ行われる以前の「共謀」だけで前倒しで処罰されることは、人の内心・思想が処罰対象とされることになって、憲法で定められた言論・思想・結社の自由に対する重大な脅威である。
  2. 広範な規制対象
     この法案では、600を超える犯罪の「共謀」が広範に処罰対象とされている。しかも修正案によっても、必ずしも団体自体が犯罪を共同目的にしているものに限定されているとは言い難く、犯罪性のない一般の会社・市民団体・労働団体等も共謀罪の対象となる団体に該当しうる可能性があることから、これらが恣意的に「組織的犯罪集団」とみなされる危険性は払拭されない。
  3. 捜査方法の危険性
     「共謀」という意思を通じる行為を捜査するには、個人の会話、電話、メール等が証拠として重視されることになる。そうすると、捜査機関による通信傍受が広く行われることになり、街中の監視カメラが一般化して、広く市民のプライバシーが監視対象とされ、社会における自由な活動を著しく萎縮させる効果を及ぼすことになる。

よって、当会は、憲法の基本権である内心・思想・表現の自由を侵害し、かつ近代刑法の大原則である罪刑法定主義・行為主義に反する「共謀罪」法案に断固反対するものである。

2006(平成18)年4月28日
静岡県弁護士会
会長 興津 哲雄

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