自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明 

  1. 政府は、平成15年12月9日、イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣などの「基本計画」を決定した。
    「基本計画」の骨子によると、政府は、陸海空の自衛隊を投入し、陸上自衛隊に無反動砲や個人携帯対戦車弾などを装備させた上でイラク南部に駐留させ、海上自衛隊にはペルシャ湾などでの、航空自衛隊にはバグダッド空港などで、それぞれ輸送活動を行わせるというものである。
    今回のイラク戦争については、イラクに侵攻する大義が果たしてあったのか、日本はアメリカに追随するだけでいいのかといった重大な問題が指摘されているが、静岡県弁護士会は、憲法との関わりで、今回の自衛隊のイラク派兵に反対せざるを得ない。
    言うまでもなく日本国憲法は、その前文において、次のように「平和主義」、「国際協調主義」を謳い、第9条において、下記の通り「戦争の放棄」、「軍備および交戦権の否認」を定めた。
    -前文の抜粋-
    日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。
    第9条
    (第1項)
    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    (第2項)
    前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。

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  2. 今回の自衛隊のイラク派遣は、人道援助をうたい文句にしているものの、治安が回復しておらず、未だ戦闘状態にあるイラクに、重装備を施した自衛隊を派遣するというものである。
    自衛隊が攻撃を受けた場合には、「正当防衛」のために自衛隊が武器を使用し反撃することを、政府は当然に予想し、これを許容しようとしている。
    自衛隊が戦闘地域に重装備で駐留し、「正当防衛」の名の下に戦闘行為を行うことが憲法第9条に違反することは明らかであり、しかも、「自衛のための自衛隊の活動は憲法に違反しない」との従来の政府の見解からも明らかに逸脱するものである。
    今回の自衛隊のイラク派遣は、どのように言い訳しようとも「自衛のため」の活動ではない。
  3. 我々弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(弁護士法第1条第1項)ものであるが、そのよって立つ基本である憲法が政府の手によって無視され、あえてこれに違反する行為が強行されようとしていることについて、これを座視するわけにはいかない。
    しかも、「基本計画」の閣議決定後の記者会見において、小泉首相は、憲法前文の前記抜粋部分はあえて読み上げず、前文の最後3分の1から「我々は、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ」、「日本国民は国家の名誉にかけ、全力をあげて」といった都合のいい部分のみを引用し、これをイラク派兵の「大義名分」とした。
    このように、憲法の基本理念を無視する一方、前文の都合のいい言葉のみを拾い上げての独自の引用や解釈に対しても、我々弁護士は、法律家として厳しく批判をせざるを得ない。
    我々は国民の基本的人権を擁護する立場から、ここに、政府の行おうとしている自衛隊のイラク派遣に強く反対することを表明するものである。

以上

2003(平成15)年12月22日
静岡県弁護士会
会長 河村 正史

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