司法修習生の給費制堅持を求める会長声明 

現在、司法修習生に対し給与を支払う制度(給費制)を廃止し、貸与制に切り替える動きが急展開している。

司法制度改革審議会の意見書が給費制の在り方を検討すべきとするにとどまり廃止を提言するものではないのにもかかわらず、財政事情を理由とする財務省の財政制度審議会の給費制の早期廃止の提言等財務省筋を中心とした圧力が強まるなか、司法制度改革推進本部の法曹養成検討部会において、十分な議論をつくさないまま、座長が給費制廃止をも可能とするとりまとめを行ったことによるものである。

司法修習生の給費制は、司法修習制度と不可分一体なものとして採用され、戦後50年余にわたり法曹三者の統一修習を経済的側面から支えて来たもので、その在り方は法曹養成の根幹に関わる重要問題の一つである。

今般の司法制度改革により採用された新たな法曹養成制度は、21世紀の司法を担うにふさわしい高い質の法曹を養成するため、法科大学院を中心とした法曹養成制度に改められたが、司法修習制度はこれまでの実務修習制度の有用性が評価されて新制度のもとでも実施されることとされている。法科大学院での履修に続く新司法試験を経て実務修習を中心とする司法修習が実施されることとされているのである。

給費制を廃止することは、司法修習生に対し高額と予測される法科大学院での就学費用に加え更なる経済的負担を強いるものである。多くの有用な人材に経済的事情から法曹への道を進むことを断念させ、経済的裕福者のみに法曹資格を与えるという結果を生じることにつながりかねない。

弁護士は、基本的人権の擁護と社会的正義の実現の担い手であり、その職務の公共性・公益性は裁判官あるいは検察官と異ならない。給費制はこの弁護士の公共性・公益性を担保する役割を果たしてきたものであり、これを廃止することは法曹の在り方をも変質させかねないものである。

今次の司法改革を実現するため、国は必要な財政上の処置を講じることが義務づけられている(司法制度改革推進法6条)のであって財政事情を理由として給費制を廃止することは到底容認できない。

なお、給費制を廃止し貸与制に切り替えたうえで任官者については返済を免除するという議論も存在するが、その実質は任官者のみ給費制を維持することにほかならず、法曹三者の統一・公正・平等の理念に基づく司法修習を変容させ、官民格差を生じさせるとともに、弁護士任官の推進、法曹一元実現の阻害要因となるものである。

したがって、静岡県弁護士会は、司法修習生の給費制の廃止に強く反対し、同制度を堅持すべく全力をあげて取り組むものである。

2003(平成15)年10月10日
静岡県弁護士会
会長 河村 正史

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