刑事弁護人の役割に対する理解と弁護活動の自由の確保を求める会長声明 

広島高等裁判所に現在係属中の殺人等被告事件(いわゆる光市母子殺人事件)に関し、本年5月29日、日本弁護士連合会に脅迫文書が銃弾の模造品とともに郵送された。脅迫文書の内容は、被告人を死刑にできないならば弁護人らを銃で処刑するなどというものであった。その後、7月8日までに、同旨の脅迫文書が朝日新聞東京本社及び読売新聞東京本社に届けられていたことが判明した。さらに、インターネットやマスメディア上において、弁護人らに対する懲戒請求を勧奨する者があり、これに応じて、現在までに数千件にのぼる懲戒請求がなされ、弁護人らや懲戒事案を審査する弁護人らの所属する弁護士会の業務に支障が出るという状況が生じている。

憲法第34条は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、また憲法第37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定しており、弁護人依頼権は、憲法の明文で認められている権利である。かかる弁護人依頼権は、人類が過去の刑事裁判の歴史の中から適正な裁判の実現のために必要不可欠の権利として生み出した被告人の最も重要な権利である。

また、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、第1条において人権と基本的自由を適切に保護するため、「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続のあらゆる段階で自己を防御するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」と定め、第16条において「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談しうること、確立された職務上の義務、基準倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。

もとより弁護人の弁護活動に対する批判等自体は、言論・表現の自由として十分に尊重すべきものであるが、脅迫行為などによる弁護活動の妨害は、刑事弁護制度に対する重大な脅威であり、許されないものであることは論をまたない。

当会は、一連の脅迫行為に強く抗議するとともに、裁判員裁判の実施を目前に控えた今日、改めて広く市民に対し刑事弁護人の役割に対する理解を求め、弁護活動の自由の確保に向けて全力を尽くす決意である。

2007(平成19)年11月30日
静岡県弁護士会
会長 杉本 喜三郎

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