「合意による弁護士費用の敗訴者負担」に反対する会長声明 

政府は、平成16年3月2日、民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(以下「本法案」という)を国会に提出し、本法案は継続審議とされて今秋の臨時国会で再び審議されようとしている。本法案は、昨年10月以降に政府の司法制度改革推進本部・司法アクセス検討会で十分な議論のないまま取りまとめられた案(当事者双方の合意がある場合に弁護士費用を敗訴者負担とする案)をほぼそのまま法案化したものである。すなわち、本法案は訴訟代理人を選任している場合に当事者双方の共同の申立があるときは訴訟代理人費用を訴訟費用に含めることとし、これを敗訴者に負担させるというものである。

当会は、既に2001(平成13)年2月14日の臨時総会において「弁護士費用の敗訴者負担に反対する決議」を採択し、(両面的)敗訴者負担の導入に反対する運動を展開してきたが、それにもかかわらず今回の事態を迎えたことは、誠に遺憾である。

司法アクセス検討会では、私的契約に敗訴者負担条項が入っている場合には、その条項に基づいて、今回の法案の内容とは別途に、勝訴者は敗訴者に弁護士報酬を請求できると議論されてきた。もし、法案が成立し、訴訟上の合意によって敗訴者負担が可能となれば、上記のような当事者間の裁判外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」を記載することによる実質的な敗訴者負担制度が広がっていくことが懸念されるという点で重大である。このような事態になれば消費者、労働者、中小零細業者など契約上弱い立場の者は、訴訟代理人費用の敗訴者負担をおそれて訴訟を提起することも受けて立つことも躊躇することとなり、司法アクセスを却って萎縮させることになりかねず、極めて問題である。

当会は、弁護士費用の敗訴者負担制度の導入は、たとえ合意によるものとしてもなお司法アクセスを阻害する弊害を払拭することはできないと考えており、その導入を内容とする本法案に強く反対するものである。

仮に導入する場合にも、上記弊害を除去するために、下記の立法上の措置がなされるべきであり、これがなされない場合には、本法案の廃案を強く求めるものである。

  1. 消費者訴訟、労働訴訟など、一方が優越的地位にある当事者間の訴訟においては「合意による敗訴者負担制度」を適用しないこと
  2. 消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)など、一方が優越的地位にある当事者間の私的契約における敗訴者負担の定めを無効とすること

以上

2004(平成16)年7月20日
静岡県弁護士会
会長 小川 良明

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