最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

静岡地方最低賃金審議会は,本年8月頃,静岡労働局長に対し,本年度静岡県最低賃金改正の答申を行う予定である。昨年,同審議会は,静岡県の最低賃金を時間額885円から28円引き上げて時間額913円とする答申を行い,静岡労働局長は,昨年10月2日から,静岡県の最低賃金を同審議会の答申どおり時間額913円に改正した。

 

しかし,静岡県の時間額913円という水準は,1日8時間,1ヶ月に22日働いたとしても,月収16万0688円,年収192万8256円にしかならない。2019年,全国労働組合総連合が発表した静岡県立大学短期大学部中澤秀一准教授による全国最低生計費試算調査の結果によると,25歳単身・賃貸住居の場合,人並みの生活に必要な費用は,月約23万円と試算されており,これを時間額に換算すると,最低でも約1300円が必要である。

したがって,現在の水準では,労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。仮に時間額1000円であったとしても,年収ではいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準である200万円をわずかに超える程度にしかならないのである。

このように,多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は,もともと日々生活するだけで精一杯で十分貯蓄を蓄えることができておらず,ここに根本的な問題がある。

最低賃金を大幅に引き上げ,最低賃金付近の低賃金で働く労働者の貧困を解消することが求められている。

 

2022年の各国の最低賃金額をみると,イギリスでは,4月に23歳以上の者の最低賃金が8.91ポンドから9.50ポンド(約1550円)に引き上げられた。フランスでは,1月に10.48ユーロから10.57ユーロ(約1440円)へ,5月に10.85ユーロ(約1480円)へ引き上げられた。ドイツでは,1月に9.60ユーロから9.82ユーロ(約1340円)へ引き上げられ,さらに7月には10.45ユーロ(約1420円)へ,10月には12ユーロ(約1630円)への引上げが予定されている。アメリカは,地域によって開きがあるものの,ワシントンDCでは15ドルから15.20ドル(約1920円),ニューヨーク州では12.50ドルから13.20ドル(約1660円)へ引き上げられた(以上の円換算については2022年6月中において適用される基準外国為替相場及び裁定外国為替相場による。)。

このように多くの国でコロナ禍でも最低賃金の引上げが実現していることに加え,我が国の最低賃金の水準が依然として低いことから,2022年度の大幅な引上げが必要である。

 

最低賃金の地域間格差が依然として大きく,格差が是正していないことも見過ごせない。

2021年の最低賃金は,最も高い東京都で時間額1041円であるのに対し,静岡県の時間額913円との差は128円である。一方,最も低い高知県と沖縄県は時間額820円であり,東京都と221円もの開きがあった。しかし,前出の最低生活費調査によれば,都市部と地方とを比較した場合,都市部に比べ,地方では家賃は低いものの生活のためには自動車が必要となることから,最低生計費は地域間でほとんど差が生じていないことが明らかとなっている。

最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり,最低賃金の低い地方の経済が停滞し,地域間の格差が固定,拡大する傾向にある。静岡県に隣接する神奈川県と比べた場合,神奈川県の時間額は1040円となっており,その差は127円であった。静岡県熱海市と神奈川県湯河原町の県境を流れる千歳川を境に,大きな格差が生じており人材の流出・労働力不足の深刻化が懸念される。

都市部への労働力の集中を緩和し,地域に労働力を確保することは,地域経済の活性化のみならず,都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。

コロナ禍で地域経済が疲弊している今こそ,最低賃金の大幅な引上げによって地域経済を活性化することが求められているのであり,早期に全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

 

他方,最低賃金の大幅な引上げは,我が国の経済を支えている中小企業に影響を与えることが予想される。最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について,現在,国は「業務改善助成金」制度により,影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし,同制度の充実は図られつつあるものの,いまだ最低賃金引き上げへの不安は拭えていない。最低賃金を引き上げても,中小企業が円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。例えば,社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策を検討すべきである。

 

当会は,これらのことを前提として,引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに,地域経済の健全な発展を促し,労働者の健康で文化的な生活を確保するという見地から,静岡地方最低賃金審議会に対し,まずは時間額1000円を達成すべく最低賃金の大幅な引き上げを内容とする答申を静岡労働局長に行うことを強く求める。

 

2022年(令和4年)6月22日
静岡県弁護士会
会長 伊豆田 悦義

ページトップへ戻る