少年法適用年齢に関する法制審議会答申に対する会長声明

  1.  当会は,2015年(平成27年)7月24日に「少年法の適用対象年齢を引き下げることに反対する会長声明」を発し,2019年(平成31年)1月24日に「少年法の適用対象年齢引き下げに改めて反対する会長声明」を発している。もっとも,2020年(令和2年)10月29日に法制審議会の総会が少年法の適用対象年齢引き下げ等に関する答申(以下「本答申」という。)を採択し,これを受けて,2021年(令和3年)1月の通常国会に少年法改正案が提出されるとの情報があることから,この機に改めて本会長声明を発する。
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  3.  本答申では,18歳及び19歳の者は類型的にいまだ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在であることを認め,刑事司法制度において20歳以上の者と異なる取扱いをすべきとしており,この点は相当であると評価できる。
     しかしながら,本答申には以下の各点について問題がある。
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  5.  18歳及び19歳の位置づけについて
     本答申では,18歳及び19歳の者について,被疑事実について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料する場合には,事件を家庭裁判所に送致しなければならないとするものの,その位置づけや呼称については,今後の立法プロセスにおける検討に委ねるものとしている。
     しかしながら,18歳及び19歳の者が類型的に未成熟であり,成長発達途上にあって可塑性を有することを認める以上,端的に,保護主義を旨とする少年法の適用対象である「少年」にあたると明確に位置付けるべきである。
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  7.  いわゆる「原則逆送」対象事件の拡大について
     現行少年法では,検察官送致決定をしなければならないいわゆる原則逆送の対象事件を「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた」重大な生命侵害事案に限定している(少年法20条2項)が,本答申ではその範囲を拡大し,「死刑又は無期若しくは短期1年以上の新自由刑にあたる罪の事件であって,その罪を犯すとき18歳又は19歳の者に係るもの」を加えている。
     しかしながら,短期1年以上の刑にあたる罪の範囲は相当に広く,犯行に至る経緯,犯行動機,犯行態様,結果等のいわゆる「犯情」の幅も極めて広い。それにもかかわらず,これらを一律に原則逆送事件に含めてしまうことは,対象者の立ち直りに向け,様々な個別事情を踏まえた上できめ細やかな処遇選択を行うという,現行少年法の下で家庭裁判所の果たしてきた機能を大きく後退させることになる。
     また,その結果,広く検察官送致がされることになれば,検察官は公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは公訴を提起しなければならないとされており,要保護性が高く保護処分による効果が見込まれる少年であっても,刑事手続の中で全部執行猶予判決となって,何ら教育的措置が与えられないという事態まで危惧される。
     このことは,18歳及び19歳の者に対しても,その要保護性に応じて保護処分による教育的手当を行うことにより,更生の機会を確保しようとする現行少年法の趣旨に反し,かえって,それらの者の立ち直りや再犯防止にとって逆効果となりかねないものである。
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  9.  推知報道の禁止に関する一部適用除外について
     本答申では,18歳又は19歳のとき罪を犯した者について,当該罪について公判請求された場合は,推知報道の禁止が及ばないとしている。
     そもそも現行少年法61条は,少年が未成熟であることや可塑性が高いことをふまえ,少年の名誉やプライバシーを保護することで,少年の社会復帰や更生の機会を確保する点にその目的がある。特に,今日では通信技術の発達により,インターネット上に実名等が含まれた報道内容が半永久的に残り続け,不特定多数の者が容易にアクセスしうる状況が生じてしまう。
     しかるに,18歳及び19歳の者に対する推知報道が解禁された場合,それらの者は,周囲から好奇や偏見の目にさらされ続けることとなり,社会復帰に向けた教育,職業,家族の援助等の重要な社会資源を失う可能性も想起される。
     このように,推知報道の解禁は,18歳及び19歳の者の更生の機会を大きく損なうものであり,許容すべきでない。
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  11.  資格制限排除規定の適用除外について
     本答申では,現行少年法が定める資格制限の排除規定(60条)についても,その適用を除外している。
     しかしながら,そもそも現行少年法60条は,少年の可塑性を重視し,刑事罰に伴う資格制限を排除することにより職業選択の可能性を広げ,更生の機会を広く設けることで少年の社会復帰を支援することを目的としている。
     そして,本答申においても,18歳及び19歳の者の未成熟性や可塑性に着目したうえで,20歳以上の者とは異なる取扱いをすべきとしていることに加え,再犯防止のためには就労の可能性を広く保障することこそ重要であることからすれば,18歳及び19歳の者に対して,引き続き資格制限の排除規定を適用すべきである。
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  13.  本答申は,以上の点を含め,多くの問題点を有するものである。
     また,近年,少年事件は減少の一途をたどっており,現行少年法に基づく手続及び保護処分が有効に機能していることは法制審議会でも異論のないところであった。さらに,国連子どもの権利委員会が2019年(平成31年)に公表した一般的意見24号では「委員会は,一般規則として又は例外としてのいずれであるかにかかわらず,少年司法制度を18歳以上の者に適用可能としている締約国を賞賛する。このアプローチは,脳の発達は20代前半まで続くという発達上,脳科学上のエビデンスに合致するものである。」と指摘されており,18歳及び19歳の者も対象とする現行少年法は,むしろ国際的に高く評価されるものであって,その適用対象年齢を引き下げるべき立法事実は認められない。
     したがって,当会は,改めて,本答申の示す少年法の改正に対しても反対するものである。
  14. 以 上

 

2021年(令和3年)1月27日
静岡県弁護士会
会長 白井 正人

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