国に対し死刑に関する情報を広く国民に周知することを求めるとともに,死刑制度存廃についての国民的議論を期待する会長声明

  1.  日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は,2011年(平成23年)10月7日の第54回人権擁護大会で,死刑のない社会を見据えた「罪を犯した人の復帰のための施策の確立を求め,死刑制度についての全社会的議論を呼びかける宣言」(高松宣言)を決議し,その5年後である2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(福井宣言)を採択し,その中で,世界の刑事司法改革が議論される国際連合(以下「国連」という。)犯罪防止刑事司法会議が日本で開催される2020年までに死刑廃止を目指すことを宣言した。
     そして,本年1月,日弁連理事会は,死刑制度の廃止に際して検討されるべき代替刑について,仮釈放の可能性のない終身刑制度を導入すべきだが例外的に一定の時間的経過に加えて本人の更生が進んだときには,恩赦の運用とともに,主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用すべき,という基本的方向性を確認した。
  2.  一方,内閣府世論調査では,約8割の人が「死刑もやむを得ない」と回答している(2014年11月)。また,①人を殺した者は,自らの生命をもって罪を償うべきである,②死刑制度の威嚇力は犯罪抑止に必要であり,凶悪な犯罪者による再犯を防止するためにも死刑が必要である,③被害者・遺族の心情からすれば死刑制度は必要である,などの意見や感情も根強い国会では,1956年(昭和31年),1965年(昭和40年)と2度にわたって死刑廃止法案が提出されたが,近時はそのような動きもない。このような国民感情の背景には,犯罪被害者への支援制度が未だ不十分だという問題もある。
  3.  こうした状況の中で,死刑制度存廃の問題をどう考えるべきかは極めて難しい問題である。死刑制度の存廃及び在り方は,法律制度の改善(弁護士法第1条第2項)に関する重大な問題であり,弁護士は率先して国民とともにこの問題を議論すべき責務を負っている。そこで,当会も,死刑制度検討プロジェクトチームを設置して,死刑制度の存廃について議論を重ねてきたが,現時点ではその方向性について未だ結論が出せる状況にはない。
     死刑制度存廃に関する議論は,存続・廃止の両方の立場からなされるべきであるだけでなく,犯罪の加害者・被害者の両方の立場に配慮して進められることが望ましい。また,議論においては,死刑存廃の是非だけに尽きることなく,代替刑等の関連する刑罰法制の在り方,犯罪者の更生,そして被害者支援の充実をも含めて広く議論をしていく必要がある。
  4.  しかし,当会は死刑制度存廃に関する議論を行うための情報が広く国民の間に周知されていない状況を深く憂慮している。その1つは,死刑制度存廃に関する国際的な動きである。
     国連では,2014年(平成26年)12月18日の第69回国連総会において,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117か国の賛成で採択されており,死刑廃止をしている国及び10年以上死刑執行をしていない国の合計は2015年(平成27年)12月現在140か国に及んでいる。しかも,先進国グループとされるOECD(経済協力開発機構)加盟34か国中,死刑制度を存置しているのはアメリカ,日本,韓国の3か国だけであり,この内アメリカで2015年(平成27年)に実際に死刑を執行した州は6州に過ぎない。また,韓国は20年近く死刑執行を停止している。つまり,死刑を国家として統一して執行しているのは,OECDでは日本だけである。
     さらに,EU(欧州連合)では,死刑廃止が加盟要件となっており,死刑存置国はない。
     そして,日本は,国連自由権規約委員会,国連拷問禁止委員会,国連人権理事会,欧州評議会などから,死刑執行を停止し,死刑廃止を前向きに検討すべきであるとの勧告を受け続けている。
     国際社会の大勢が死刑廃止を志向しているのは,①死刑はかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰ではないか,②死刑判決にも誤判のおそれがある,③家庭,経済,教育,地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至ることも多く,刑罰の目的は応報だけにとどまらず罪を犯した人の更生と社会復帰も目的であるが,死刑は更生し社会復帰する可能性を完全に奪うもので問題ではないか,④刑罰として死刑に重大な犯罪を抑止する効果が乏しいのではないか,などの理由からである。
     前記内閣府世論調査は,こうした世界の動向について知らせないまま調査をしている。もっとも,そのような調査でも,死刑やむなしの回答の約40%が「状況が変われば廃止」「終身刑導入なら廃止」と回答しているのである。
  5.  また,日本では,死刑囚の実態や死刑執行の判断過程その他の死刑に関する情報が秘密にされて国民には知らされていない。さらに,死刑制度の存廃と凶悪事件の増減との関係などに関する諸外国の状況を含めた情報や,凶悪事件における各国の犯罪被害者に対する支援制度に関する情報なども十分には伝えられていない。つまり,我が国においては,こうした死刑存廃に関する議論を行うための情報が十分に周知されているとは言えないのである。
  6.  よって,当会は,国に対し,こうした死刑に関する情報を十分に国民に周知することを求めるとともに,これを前提として広く国民の間において死刑制度存廃の議論がなされることを強く期待するものである。

 

2019年(平成31年)3月20日
静岡県弁護士会
会長 大多和 暁

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