最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

静岡地方最低賃金審議会は,本年8月頃,静岡労働局長に対し,2018年度静岡県最低賃金改正の答申を行う予定である。昨年,同審議会は,静岡県最低賃金を時間額807円から25円引き上げ時間額832円とする答申を行い,静岡労働局長は,昨年10月4日から,静岡県最低賃金を同審議会の答申どおり時間額832円に改正した。

 

しかし,時間額832円という水準は,1日8時間,週40時間働いたとしても,月収約14万4000円,年収約173万円にしかならない。この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。日本の最低賃金は先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低いことは明らかである。フランス,イギリス,ドイツの最低賃金は,日本円に換算するといずれも1000円を超えている。アメリカでも,ニューヨーク州やカリフォルニア州が15ドルへの引上げを決定したのを始め,全米各地の自治体で最低賃金大幅引上げが相次いでいる。国際的に見て日本の最低賃金の低さは際立っている。

 

我が国の貧困及び貧富の格差の拡大は深刻な事態となっている。我が国の2015年貧困率は15.6%であり,3年前の16.1%と比べやや改善したものの,貧困ラインは年収122万円のままで変動がない。女性や若者に限らず,全世代で貧困が深刻化している状況である。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は,最低賃金付近の賃金での労働を余儀なくされており,最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻止する大きな要因となっている。それゆえ,最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要である。

 

この点に関しては,最低賃金の地域間格差が依然として大きく,ますます拡大していることも見過ごすことのできない問題である。2017年において,最低賃金が最も高い東京都の時間額958円と静岡県の時間額832円との差は126円もあり,最も低い高知県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県の時間額737円と東京都との差は221円もあった。そして,このような地域間格差は年々拡大している。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く,労働者不足のために倒産する企業が相次いでいる。地域経済の活性化のためにも,地方における最低賃金の引き上げによって,地域間格差を縮小することは喫緊の課題である。

 

このような課題を達成するためには,審議会における審議,議事録,配布資料の公開も重要である。鳥取地方最低賃金審議会においては審理の全面公開が実現しているが,何ら問題は生じていない。中央及び静岡地方最低賃金審議会においても,審理の全面公開を積極的に推進すべきである。

また,中央及び各地の審議会において,最低賃金の引上げが雇用や経済に与えた影響についてのしっかりとした検証作業をすべきである。科学的な検証結果に基づく検証作業の実施によって国民の信頼を得ることができると思料する。

 

他方,最低賃金の大幅な引上げは,特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げが困難な中小企業のために,最低賃金の引上げを可能とするための社会保険料の減免措置や補助金制度等の構築を検討すべきであり,その際には中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置などを有機的に組み合わせることが必要である。同時に,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し,中小企業とその取引先企業との間での公正な取引が確保されるようにする必要がある。

 

当会は,これらのことを前提として,地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活を確保するという見地から,静岡地方最低賃金審議会に対し,全国加重平均額として2020年までの政府の達成目標額とされている時給1000円を静岡県でも同年までに実現し得る水準での最低賃金の大幅な引き上げを内容とする答申を静岡労働局長に行なうことを,強く求めるものである。

 

2018年(平成30年)7月25日
静岡県弁護士会
会長 大多和 暁

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