修習給付金の充実を求めるとともに いわゆる「谷間世代」に対する是正措置を求める会長声明 

  1.  昨年4月,裁判所法の改正により司法修習生に対する修習給付金制度が創設され,同年12月に司法修習が開始された第71期司法修習生に対し,同制度に基づく修習給付金の支給が開始されている。
     この修習給付金制度は,司法修習生の状態を改善した点で評価できるものの,残念ながら司法修習生が修習に専念できる十分なものとまでは言えず,本来は従来の給費制を復活させるべきであるが,当会は,当面,修習給付金の一層の充実を求めるものである。
  2.  もともと司法修習生に対する給費制は,日本国憲法下で新たな司法修習制度が開始された1947年から実施されたもので,司法制度はその利用者たる国民を最終的な受益者とするものであることから,司法制度を担う人的インフラである法曹については,国が公費をもって養成する責務があるという考え方に基づき,司法修習制度を設けて法曹としての高い倫理と技術を習得させるために,司法修習生に対して修習専念義務と守秘義務を課して兼業を禁止する一方,司法修習生が修習に専念することができる生活基盤の保障のために実施されてきたものである。
  3.  しかし,この給費制は,司法修習生が増加したことによる財政負担等の理由により廃止され,2011年11月からの新第65期以降の司法修習生は国からの給費を受けることができなくなった。これに対し,日本弁護士連合会,当会を含め全国の弁護士会が,ビギナーズ・ネットや多くの市民団体とともに,給費制の復活に向けた諸活動を展開し,法務省,最高裁判所,国会等の関係機関に働きかけた結果,上記の修習給付金制度が創設されたのである。
     しかしながら,修習給付金制度は,新第65期から第70期までの司法修習修了者計約1万1000人には遡及適用されないこととなったため,修習給付金制度の恩恵を受けることのできない,いわゆる「谷間世代」が生じてしまった。
  4.  谷間世代の司法修習生は,修習貸与金制度によって約7割である約8100人が修習資金の貸与を受けていた。そして,谷間世代の司法修習修了者の多くは平均約300万円の借金を負って法曹生活のスタートを切っており,しかも,多くの司法修習修了者には法科大学院時代に借りた奨学金債務があり,さらに,大学生時代に借りた奨学金債務もある者もおり,いきなり1000万円以上の借金を負って法曹生活をスタートすることを強いられている者もいるのである。
     この谷間世代も,修習専念義務を負って司法修習を終え,他の世代の法曹と同様,司法の担い手として公益的な役割を果たしてきているが,「もっと社会公益的な活動をしたくて弁護士になったが,貸与金返済が控えていて経済的余裕がないために,公益活動や積極的な業務への取り組みを自制しがちとなっており残念だ」,「困っている人を助けたいと思って弁護士になったが,自分がマイナスを抱えている中で,費用対効果を度外視して事件を受けたり様々な活動に取り組んだりすることはなかなか難しい」,「多額の貸与金や奨学金の返済債務のために,結婚や妊娠・出産を躊躇してしまう」等の切実な声が多数寄せられている。このように,貸与金の返済が多数の若手弁護士の社会公益的活動の意欲をそぎ,法曹界全体の活動能力を低下させ,ひいては国民生活にマイナスとなりかねない事態が生じつつあるのである。
     前記のとおり,司法修習制度は,司法修習生に修習専念義務を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度であることから,国には修習に専念できるに足る生活保障をする義務があるというべきであって,本来,司法修習を受ける時期如何によって,修習生が大きな不利益を受けることはあってはならない。修習専念義務を負いながら給費も給付も受けられなかった谷間世代に対する経済的是正措置は喫緊の課題なのである。修習給付金制度創設の目的は,「法曹人材確保の充実・強化」にあるとされるが,法曹人材を確保するには,法曹志願者の増加だけでなく現在の法曹の流出の防止も重要であって,谷間世代に対する経済的是正措置は,有為な人材が法曹界から流出することを防ぐという意味では,修習給付金制度創設の目的と何ら異ならない。
     なお,この是正措置は,単に,弁護士が弁護士であることによって受けられるものであってはならず,裁判官,検察官等谷間世代が等しく受けられるものでなければならない。
  5.  ところで,谷間世代のうち,新第65期司法修習修了者の第1回目の貸与金返還期限が本年7月25日に迫っている。
     当会は,国及び関係機関に対し,修習給付金の一層の充実を求めるだけでなく,谷間世代に対する一律給付金交付などの具体的な是正措置を速やかに講ずることを求めるとともに,この是正措置が講じられるまでの間,貸与金の返還期限を一律猶予する措置を講ずることを求めるものである。

 

2018年(平成30年)6月29日
静岡県弁護士会
会長 大多和 暁

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