国籍を問わず調停委員の任命を求める会長声明 

全国の各家庭裁判所および地方裁判所は,これまで,仙台弁護士会,東京弁護士会,京都弁護士会,大阪弁護士会,兵庫県弁護士会等が,調停委員となるべき者として推薦した外国籍の弁護士に対して,日本国籍を有しないことのみを理由に,最高裁判所への任命上申を行わない対応をとり続けている。本年6月にも,横浜家庭裁判所から受けた家事調停委員候補者の推薦依頼に対して,神奈川県弁護士会が同庁に対して推薦した同会会員6名のうち1名について,日本国籍を有しないとの理由のみで最高裁判所への任命上申が見送られた。このような任命上申見送りは,「公権力の行使に当たる行為を行い,もしくは重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする公務員(以下「公権力行使等公務員」という。)には,日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ,調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため,その就任のためには日本国籍を必要と考えている。」という最高裁判所の見解(日本弁護士連合会の照会に対する2008年10月14日付最高裁判所事務総局人事局任用課回答)に基づくものである。

しかし以下の理由から最高裁判所の上記見解は妥当とは言えない。

まず,第一に,家事事件手続法や民事調停委員規則及び家事調停委員規則には,委員の資格に関して日本国籍を要するとの規定はない。にもかかわらず最高裁判所が運用によって他の要件を課することには問題がある。

第二に,調停委員の本質的役割は,専門的知識もしくは社会生活の上での豊富な知識経験を活かして,当事者双方の話し合いの中での合意を斡旋して紛争の解決にあたるというものであり,この点に関して日本国籍の有無は関係ない。

第三に,日本には250万人以上の在留外国人が生活し,外国籍からの日本国籍取得者が50万人以上居住しており,十分な資質を有する外国籍者が調停委員として手続に携わることは調停制度をより充実させることに繋がる。すなわち,家事調停や民事調停において,当事者が日本国籍を有しない者であることも少なくない。こうした事件の場合,むしろ異国において生活をする当事者の実情を肌で感じられ,他国の文化と日本の文化の相違を身をもって感じている日本国籍を有しない調停委員の知見が,事件の解決に大きな役割を果たしうるのである。外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が来年4月に施行されることとなっており,今後益々在留外国人が増加していく中,多民族多文化共生社会形成を実現するためには,日本に定住している外国籍者が調停委員として手続に携わることが望ましい。最高裁判所も,1974年から1988年まで14年にわたり日本国籍を有しない弁護士を民事調停委員に任命し,定年退職時には地方裁判所所長が表彰を行った実例があり,このことは外国籍の調停委員が職務を行うことに何ら不都合がないことを示している。

第四に,調停委員は,前述のとおり調停に一般市民の良識を反映させるため,社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知見を活かし,当事者間の合意を斡旋して紛争の解決にあたるというものであり,当事者間の合意を基底とする手続に参画するに過ぎず,その職務の性質上具体的な公権力の行使,重要な施策に関する決定またはこれらへの参画は行わない。調停調書は確定判決と同一の効力を有するが,この拘束力はそもそも当事者の合意に由来するものであって,公権的に当事者の権利を制約するものではない。また調停に代わる審判を行うのは家庭裁判所であり,調停委員は意見を求められるに過ぎない。このように調停委員は公権力行使等公務員に該当しないのである。そして,破産管財人,相続財産管理人,不在者財産管理人など,公的側面も有する職務について,外国籍の弁護士等の就任が認められていることに照らしても,外国籍の調停委員を排除する理由はないのである。

第五に,日本国籍を持たない者の就任を拒否する裁判所の対応は,法令に根拠のない基準を新たに創設し,調停委員の具体的職務内容を問うことなく,日本国籍の有無のみで一律に異なる取り扱いをするものであって,国籍を理由とする不合理な差別であり,憲法14条,自由権規約26条及び人種差別撤廃条約5条の平等原則に違反するものである。

また,国連人種差別撤廃委員会は,2010(平成22)年3月9日最終見解及び2014(平成26)年8月28日総括所見において,日本国籍を有しない者が調停委員として活動できるように日本国の見解を見直すことを勧告している。この総括所見では,「委員会は,家事紛争を解決する裁判所において,締約国が,」能力を有する日本国籍でない者を「調停委員として活動することから除外する見解と実務的取扱いを継続していることに,特に懸念する。委員会は,(中略)締約国に対して,家事紛争を解決する裁判所において」能力を有する日本国籍でない者が「調停委員として活動できるよう,締約国の見解を見直すことを勧告する。」と指摘しているところである。

よって,当会は,最高裁判所に対し,法律及び規則の要件を充足する資質のある者については,国籍を問わず調停委員に任命することを求めるとともに,全国の各家庭裁判所及び地方裁判所に対して,日本国籍を有しないことのみをもって最高裁判所への調停委員任命上申を行わない対応を取らないことを求める。

 

2018年(平成30年)12月26日
静岡県弁護士会
会長 大多和 暁

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