法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更案についての会長声明

  1.  現在,法務省を中心に,「法曹志望者の時間的・経済的負担軽減を図り,もって法曹志望者を増加させること」を目的として,いわゆるギャップタームの解消を図るために,法科大学院生が在学中に予備試験なしで司法試験の受験を認める制度変更を検討し,早ければ,現在開会中の臨時国会に司法試験法等改正案を提出して,新制度を2023年から適用しようとしている。
  2.  ギャップタームとは,現行の制度において,3月末の法科大学院修了から,5月の司法試験受験,9月の合格発表を経て,11月末ごろの司法修習開始までの間に8ヶ月程度の期間が存在することを指す。これにより,法曹志望者にとっての経済的・時間的な負担が生じ,法曹を目指すことを断念する原因の一つとなっているとして,このギャップタームの解消策として,現行では法科大学院修了を司法試験受験の原則要件としているところ,法科大学院修了前に司法試験受験を認めるよう受験要件を変更し,司法試験の実施時期を現状より前倒しをして法科大学院既修2年目・未修3年目の途中に実施し,法科大学院修了前に司法試験の合格発表を行い,司法修習を法科大学院修了後の4月から行うことが検討されているのである。
  3.  しかしながら,現行の制度が司法試験受験要件として,法科大学院の修了を要件としたのは,以前の司法試験という「点」のみによる選抜では不十分であると考えられたためであり,体系的に法実務教育をするために「プロセス」の中で法曹を養成していく制度に転換するとの観点から,その中核として法科大学院制度を導入し,司法試験も「法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えるべきである」として,法科大学院を修了した者に司法試験の受験要件を与えることとしたのである。そして,司法試験法も,試験は「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的」とする(司法試験2条3条)としているのである。
     ところが,法科大学院の課程をまだ修了していない教育途上の者が,上記判定を受けられるとするのは法科大学院制度の基本理念に反するものであるし,在学中に司法試験に合格すれば,試験の時点で上記知識と能力を有すると判定されることとなって,その者が受験後に法科大学院に在籍する理由は全くなくなり,法科大学院を修了することを要件とすることとも矛盾する。さらに,法科大学院修了者と同程度かどうかを判定する予備試験制度との整合性も取れなくなってしまうのである。
     また,法科大学院既修2年目・未修3年目の過程の途中に司法試験を実施することとなれば,その前の既習1年目・未修2年目は,法的基礎力を付けるべき時期であるにも拘らず司法試験の受験準備に費やされ,法科大学院が受験予備校化し,法科大学院の存在意義を失わせてしまう可能性が高い。したがって,このような制度変更は,法科大学院制度の自殺行為に等しいものである。
     さらに,司法試験の実施時期を大幅に前倒しすることとなれば,司法試験の出題内容について,法科大学院の授業進度に配慮し,出題範囲を限定したり,難易度を低下させるなどの本末転倒な事態を招く危険性も高く,また受験者の質の低下を招き,ひいては司法試験合格者の質の低下を招く懸念もある。
  4.  そもそも,ギャップタームの存在だけが法曹志望者を減少させている原因だという客観的な根拠はどこにもない。むしろ,法曹志望者の激減の原因は,法科大学院の乱立を許し,また法科大学院の定員を多く設定しすぎ,弁護士に対する需要を見誤り,司法試験合格者数をあまりに過剰に設定したことなどから,弁護士数の急激な増加を招き,就職難を生じさせ,待遇の悪化を招き,一人当たりの事件数が減少することで収入減も招いたことなどから将来への不安等が生じたこと,その一方で当初7,8割と言われていた合格率が低迷し,受験回数制限があることから,法曹志望者がコストと時間をかけてまで法科大学院への進学を選択しない可能性があること,司法試験合格後,1年間の司法修習を経なければ法曹実務家になれないにも拘らず給費制が廃止されたこと等にある可能性が高く,ギャップタームの存在は主たる原因ではない。ギャップタームの解消を行ったところで,それ以外の複雑に絡み合った原因が解消されるわけではなく,法曹志望者の減少を食い止める有効な手段にはなり得ないし,上記に指摘した制度理念との矛盾や司法試験の内容の劣化,司法試験合格者の質の低下といった重大な弊害を生じさせかねない。したがって,ギャップタームの上記解消策は,採用すべきではない。
  5.  以上から,当会は,法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更案に反対する。

 

2018年(平成30年)11月28日
静岡県弁護士会
会長 大多和 暁

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