「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」における罰則の新設 等に反対する会長声明 

政府は,2015年3月6日に出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の一部を改正する法律案(以下「本改正案」といいます。)を提出しました。

この法案は,①上陸許可や在留資格変更許可等を受ける際に,偽りその他不正の手段を用いた場合の罰則を強化するとともに,②その申請を営利目的で手助けしたりすることについて,罰則を新設する内容となっています。

また,③いったん付与された在留資格の取消について,これまでの,所定の活動を継続して3か月以上行わないで在留している場合に加え,所定の活動を行わず,「他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合を在留資格取消事由とするものとしています。

これらの改正案は,難民庇護申請者や外国人を支援する弁護士の活動を不当に制約するおそれがあり,また,日本に在留する外国人の地位を過度に不安定にするものですから,当会はこれに反対します。

①の,上陸許可や在留資格変更許可等を受ける際に,偽りその他不正の手段を用いた場合の罰則を強化することについてですが,政府統計によれば,「不法残留者」は,この20年間で約30万人から約6万人まで減少しており,現時点で敢えて厳罰化を図る必要性はありません。

出身国で迫害を受けて,難民として日本で保護を求めるべく来日した庇護申請者たちは,多くの場合,来日目的として観光や親族訪問などを入国審査官に告げて「短期滞在」等の在留資格で上陸許可を受け,その後に支援者や弁護士などの援助を得て難民認定申請を行います。それは,万が一にも,空港で入国を拒絶され送還されると,出身国における迫害に再び身を曝す危険があるからで,このような行為を一概に非難することはできません。しかし,本改正案では,このような難民認定申請者も刑罰の対象となってしまいます。

この点,本改正案においても,「難民であること」等の証明があり,かつ,かかる事項を遅滞なく入国審査官の面前において申し出た場合にのみ,本改正案の罰則につき「刑を免除する」と定められています。しかし,日本における難民認定審査は,国際的に見て独自の極めて厳しい内容であり,難民認定率自体が僅か0.5%未満である現状では,「難民であること」等の証明を要件とする例外規定は,救済措置として機能しません。

②の「偽りその他不正の手段を用いた」申請を営利目的で手助けしたりすることについて,罰則規定を新設することについてですが,具体的には,本法案は,「偽りその他不正の手段により,上陸の許可等を受けて本邦に上陸し,又は第4章第2節の規定による許可を受け」る「行為」を営利目的で「実行を容易にした者」も刑事罰の対象としています。

この条文は,「実行を容易にした」との文言自体が,極めて曖昧であって,不当な拡大解釈を可能とするものであるため,同規定に恣意的な運用より,庇護申請を始めとする入管関連手続を補助し支援する者たちに対して,不当な捜査及び訴追が及ぶおそれがあります。

本改正案は,職務として申請行為を代理する弁護士をも,共犯として訴追の対象とし得るものとなっています。入国在留関係の申請書に記載すべき事項は多岐にわたり,提出する資料等も海外で作成されたものが相当数含まれる場合が多く,その全てにつき正確性を完全に担保することは,極めて困難です。弁護士が,できる限り正確な調査・立証に努めることは当然ですが,万一,内容的に間違いのある記載をしてしまった場合に,本改正案の恣意的な運用によって,「偽りその他不正の手段によ」る在留資格の取得変更等を「未必の故意」をもって「容易にした」と評価されて捜査・訴追の対象とされる危険があります。

ひいては,弁護士が入管関連手続に関与することを委縮させ,結果として,庇護申請者などが弁護士から法的支援を受ける機会を奪うこととなります。

③の在留資格取消事由拡大については,現行法の入管法「別表第一」の就労等の在留資格を有する外国人の在留資格取消事由について,活動を継続して3か月以上行わないで在留している場合の在留資格取消に加え,所定の活動を行わず,「他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合も在留資格取消事由とすることなどを内容とするものです。

このような改正は,就労等の在留資格を有する外国人の地位を著しく不安定にするおそれがあります。

すなわち,本改正案が実施されると,仮に就労等の在留資格を有する外国人が失職した場合,一定の期間を経ることなく,直ちに在留資格を取消される対象となり得ることとなります。その上,実際に他の活動を行っている場合だけでなく,「行おうとしている」と判断されたにすぎない場合でも在留資格の取消しの対象とされるため,入管当局の恣意的な判断によって安易に在留資格の取消しの対象とされることが懸念されます。

以上のとおり,本改正案における上陸や在留資格関係の申請に関係する罰則等の新設や強化は,迫害を逃れ日本を頼って入国する庇護申請者や,日本に在留する外国人や外国人の入管関係手続に関わる多くの者に深刻な影響を与え,弁護士の職務への不当な介入を招くおそれがあります。また,在留資格の取消事由の拡張は,在留資格のある外国人の地位を著しく不安定にするおそれがあります。当会は,本改正案のこれらの規定に対して反対します。

 

2015(平成27)年7月24日
静岡県弁護士会
       会長 大石 康智

ページトップへ戻る