弁護人接見の盗聴に対し強く抗議する声明 

  1.  袴田第二次再審請求事件の審理が行われている東京高等裁判所の即時抗告審の審理において,検察官から弁護人に開示された証拠の中に,静岡県警察清水警察署内での弁護人と袴田氏本人の接見を録音したテープが袴田事件弁護団によって発見された。
     これにより,袴田氏の逮捕から5日目の昭和41年8月22日午後4時40分から約5分間,弁護人と袴田氏の接見時の会話が警察署において盗聴されていたこと及び盗聴の記録を捜査機関がひそかに長期間隠し持っていたことが明らかにされた,と同弁護団は発表した。
     弁護人及び被疑者が,接見の内容について警察官に録音されることを,同意することは極めて稀と思われるので,この録音テープは,警察官によって秘密録音されたことが強く疑われるところである。
  2.  憲法34条及び刑訴法39条1項は,被疑者・被告人は,捜査機関に接見の内容を知られることなく,弁護人と接見する権利を秘密接見交通権として保障している。
     秘密接見交通権は,身体を拘束されている被疑者・被告人が,萎縮することなく弁護人と意思疎通を図り,その助言を受ける等の援助を受けるとともに,有効な防御活動を行うために不可欠で極めて重要な権利である。
     最高裁も(昭和53年7月10日判決),「この弁護人等との接見交通権は,身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つであることはいうまでもない。」とその意義を明らかにしている。
     また,捜査機関が弁護人と被疑者の接見の内容を事後的に被疑者に質問をすること自体を違法とする判決も出されているところである(福岡高判平成23年7月1日判例時報2127号9頁)。
     被疑者と弁護人の接見の内容を警察が盗聴するなどということは,最も重要な弁護人の固有権でもある秘密接見交通権を根本から侵害するものであり,刑事司法制度の根幹を揺るがす重大な事態であり,絶対にあってはならないことである。
     加えて,静岡県弁護士会は,この盗聴の事実が,約50年の長きにわたって警察・検察の捜査機関を除いて誰にも知らされずに警察署の奥深くに隠匿されていたことに強い憤りを覚えるものである。
  3.  2014年3月27日の静岡地方裁判所の再審開始決定において,静岡地方裁判所は,有罪認定の決定的証拠であったいわゆる5点の衣類について,捜査機関による証拠のねつ造の疑いが相当程度あるという判断をしている。
     このような言語道断の証拠のねつ造行為に加えて,今回の録音テープが警察官による盗聴行為の結果だったとすれば,当時の静岡県警察は,証拠をねつ造し,接見内容の盗聴行為までして,真実をねじ曲げ,冤罪の事実を作り上げようとしたことになる。
     静岡県弁護士会は,このような違法な接見盗聴を行った静岡県警察に対し,強く抗議する。
     静岡県警察は,このような盗聴行為の経緯を徹底して調査し,事実を公表すべきである。
     そのような静岡県警察による調査があってこそ,上記のあってはならないことの再発を防止することになると考えるからである。
     検察官は,捜査機関によってかかる違法行為がつみかさねられた事実を直視し,速やかに上記再審開始決定に対する即時抗告を取り下げるべきである。
     違法手続きとねつ造の疑いを否定できない証拠に依拠して下された死刑判決は,直ちに検証されるべきだからである。
     裁判所は,かかる違法行為の積み重ねによりつくられた冤罪の事実を直視し,速やかに,検察官の即時抗告を棄却して,再審を開始し,無罪判決を出すべきである。

 

2015(平成27)年4月24日
静岡県弁護士会
       会長 大石 康智

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