地域司法の充実を求める総会決議 

当会は,地域における司法制度が住民にとってより利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのあるものとなるよう,住民に対する一層の法的サービスの充実を図る工夫と努力をするとともに,裁判所及び関係諸機関に対し,静岡県における地域司法の充実の実現に向けて,以下の諸施策を速やかに実施することを求める。

  1. 1 静岡地方裁判所沼津支部において,早急に労働審判手続の取扱いを開始すること。
  2. 2 静岡家庭裁判所島田出張所に裁判官及び家庭裁判所調査官を常駐させること。

以上のとおり決議する。

 

2016(平成28)年2月23日
静岡県弁護士会臨時総会

決議の理由

  1. 1 地域司法を充実させる必要性

    平成13年に発表された司法制度改革審議会の意見書には,「国民の期待に応える司法制度とするため,司法制度をより利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのあるものとする」ことが謳われ,「国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)」が目標として掲げられている。しかし,その後14年以上が経過した現在,裁判所及び検察庁の支部や家庭裁判所出張所,簡易裁判所等にかかわる地域における司法基盤の整備は遅々として進んでおらず,いまだ社会の期待に応える状況には至っていない。

    全国各地を見ると,裁判官の常駐していない地方・家庭裁判所支部や法曹資格を有する検察官の常駐していない地方検察庁支部が未だに多数存在する等,地域によっては市民が司法サービスを受ける上で様々な支障が生じており,裁判を受ける権利の侵害ともいうべき事態さえ出現している。このため,裁判所支部を本庁に昇格させる運動,支部において合議事件や労働審判を取り扱うよう求める運動,家庭裁判所出張所を支部に昇格する運動等が多くの地域において進められるようになっている。

    静岡県においても,裁判官の常駐していない裁判所支部及び家庭裁判所出張所が存在する等早急に改善を要する問題があり,地域司法の基盤整備を進める必要性は大きい。

  2.  

  3. 2 日本弁護士連合会及び関東弁護士会連合会の取組方針等
    1. (1) 平成24年7月13日,日本弁護士連合会は,「裁判所支部機能の拡充に向けての取組方針」を発表し,あらゆる地域で全ての市民が平等な司法サービスを受けられるよう地域司法を充実させる必要性を説いている。
       更に,日本弁護士連合会は,平成26年3月19日には,「民事司法改革課題に取り組む基本方針」を発表し,①司法アクセスの拡充,②審理の充実,③判決・執行制度の実効性の確保,④行政訴訟制度の拡充,⑤基盤整備の拡充を速やかに実現すべき目標として挙げている。
    2. (2) また,関東弁護士会連合会は,平成23年度定期大会において,東京高等裁判所管内の司法が社会の期待に応えるものとなっていないことを直視し,解決が強く求められている同管内の地域司法に関する課題に取り組むことを宣明し,日本弁護士連合会及び単位弁護士会とともに,最高裁判所,法務省,政府その他関係機関,地方自治体等に呼びかけ,それらの実現に向けて行動を開始すると決議している。
    3. (3) 当会としても,日本弁護士連合会及び関東弁護士会連合会とともに,地域司法の基盤整備のために今後一層努力する所存である。
  4.  

  5. 3 静岡地方裁判所沼津支部において労働審判手続を実施する必要性
    1. (1) 現在,静岡県内において,労働審判手続は静岡地方裁判所本庁でしか実施されていない。その結果,各支部管内に居住する住民にとっては使い勝手の悪い事態が生じている。例えば,労働審判手続を利用したいと思っても,住居等が地方裁判所本庁から遠隔地にあるため,時間的または交通費等の費用面からこれを断念せざるを得ないケースが相当数見受けられる。
    2. (2) 本来,本庁管内に居住する者と支部管内に居住する者との間で司法サービスの享受に実質的な格差があってはならないはずであるし,住民が地元の裁判所で労働審判等の手続を気軽に利用できないような事態は,我が国の何人にも保障されている憲法第32条の裁判を受ける権利に牴触しているといえよう。
    3. (3) ただし,日本弁護士連合会と最高裁判所が地域司法の基盤整備に関し重ねてきた協議を受けて,今般,最高裁判所は,平成29年4月から静岡地方裁判所浜松支部において労働審判手続を実施すべく準備に着手することを明らかにした。これは静岡県の地域司法にとっては誠に歓迎すべきことである。
       他方,静岡地方裁判所沼津支部については,当会等からの強い要望にも関わらず,労働審判手続の開始が見送られることとなった。
    4. (4) しかしながら,沼津支部は,本庁及び浜松支部と対比しても,管内人口及び登録弁護士数ともにほぼ同様の規模であり,労働事件の発生数にも大差はないと見られている。
       そのため,沼津支部においても,浜松支部と同様に,速やかに労働審判手続が実施される必要がある。
  6.  

  7. 4 静岡家庭裁判所島田出張所に裁判官及び家庭裁判所調査官を常駐させる必要性
    1. (1) 静岡家庭裁判所島田出張所の管内人口は,本年初頭において47万人を超えており,静岡地方・家庭裁判所富士支部のそれを大きく上回る規模を有している。また,家事事件の受理事件数も,平成25年度においては3333件を数え,同時期における静岡家庭裁判所本庁の受理事件数6450件の半数を超えている。
    2. (2) ところが,現在,島田出張所では,裁判官も家庭裁判所調査官も常駐しておらず,静岡家庭裁判所本庁から填補を行っている。しかしながら,前記のとおり事件数が多いため,調停等の期日がなかなか入らないという苦情や,調査をなかなか進めてもらえないという指摘が少なからずあり,早急にその改善を図る必要がある。
    3. (3) そこで,島田出張所に関しては,速やかに裁判官及び家庭裁判所調査官を常駐化させるべきである。

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