熱海市伊豆山地区における住宅被害がない帰還困難者に対する支援措置の申入れ 

熱海市伊豆山地区における住宅被害がない帰還困難者に対する支援措置の申入れ

 

令和3年8月2日

 

静岡県知事 殿

熱海市長 殿

住宅金融支援機構 御中

 

静岡県弁護士会 会長 諏訪部 史人

同 災害対策委員長 青島 伸雄

 

謹啓 平素より,当会の災害対策及び被災者支援活動にご理解とご協力を賜り誠にありがとうございます。またこの度の令和3年7月大雨災害(以下,「本件災害」と申します。)に際しても,当会の現地被災者支援活動等の円滑な実施にご協力をいただき重ねて感謝を申し上げます。

 

さて,当会は,本件災害の発災後,7月5日から被災者無料電話相談を開始し,また同月26日からは,熱海市との連携の下,熱海市総合福祉センターでの被災者相談ブースに弁護士を複数名派遣し,連日,被災された方からのご相談やお困りごとをお聞きしているところです。

これら一連の当会の被災者支援活動の中で,当会の相談担当弁護士の下には,本件災害による土石流の被災エリアからは若干外れているために,住宅自体には基本的に被害がないものの,二次災害の危険等により帰宅できない住民からの不安や不満の声が極めて数多く寄せられている状況です。具体的には,「あの場所に戻れと言われても怖くて戻れない。」「立入規制が解除されたらホテル避難所も追い出されるのか。」「われわれは応急仮設住宅には入れないのか。」「二次災害の危険が同様にあるのにわれわれには住宅被害がないというだけで支援がないのか。」などの声が数多く寄せられているところであります。

 

当会としては,関係する皆様には,国の法律及び自治体独自の支援措置などあらゆる方策を活用し,自宅には被害がないものの,土石流の二次災害の危険等から帰還ができない住民に対しても,住宅被害を受けた被災者との関係で公平・平等な支援措置がとられるよう強く要望いたします。

以下,当会からのご要望として,下記のとおり具体的に申し述べます。

謹白

 

 

  1. 被災者生活再建支援法の長期避難世帯の認定を速やかに行うこと
    (1) ご承知のとおり,被災者生活再建支援法(以下,「支援法」と申します。)では,長期避難世帯(支援法第2条第2号ハ)についても「被災世帯」とされるため,この長期避難世帯の認定を受けた世帯は,支援法第3条第1項により,全壊世帯と同様の支援(基礎支援金と加算支援金の合計で最大300万円)を受けることが可能となります。なお,長期避難世帯の定義については,本書末尾をご参照願います。
    (2) 現状,土石流で直接被災したエリアについてはもちろんのこと,その周辺の一定のエリアの中においても,今後の適切な砂防工事などがなされる前の段階では,完全に二次災害の危険を払拭できない場所があるものと拝察いたします。そのような場所の安全性を住民に説明できるに至るまでには,少なくとも科学的な調査等のために相応の時間を要するものと思料され,現時点で,直ちに立入規制を解除し,住民の帰還を容認する判断をすることは困難ではないかと思われます。
     そうした状況の中では,住民の安全確保のために住居への帰還を制限する時期が一定期間継続することが予想されますが,そうした帰還制限世帯については,「当該自然災害により火砕流等による被害が発生する危険な状況が継続することその他の事由により,その居住する住宅が居住不能のものとなり,かつ,その状態が長期にわたり継続することが見込まれる世帯」というべきであり,速やかに,支援法に基づく長期避難世帯の認定がなされるべきものと思料いたします。
     これまでにも,東日本大震災のほか,本件災害と同様の豪雨災害である平成29年7月九州北部豪雨の朝倉市など様々な災害発生時に長期避難世帯の認定がなされているところですが,当会としては,まずは速やかな認定を強く要望する次第です。
    (3) 住家被害がないものの二次災害の危険等により帰還困難な住民世帯を長期避難世帯と認定することは,本件災害で被災した地域の住民の分断回避,被災者に対する支援の公平・平等性にも資するものです。かつて本件災害と同様の土石流災害に見舞われた平成26年8月豪雨の広島市においても,住家被害がある世帯とそうではない世帯との支援法に基づく支援金の差,義援金の差その他受けられる支援の差により地域住民の間で分断ともいうべき,難しい状況が生じたとも聞いております。本件で,熱海市伊豆山地区の今後の復興まちづくりまで視野に入れた場合,特に,地域住民の間に,社会通念上甘受すべき限度を上回るような支援の格差が生じることは,可能な限りで避けるべきとも考えます。
    (4) 長期避難世帯の認定は,ご承知のとおり,安全性等が確認された時点で解除が可能です。長期避難世帯の認定により基礎支援金(最大100万円)が認定を受けた住民世帯にある程度公平・平等に交付された段階で,科学的な調査,分析等が進み,住民意向なども踏まえた上で,解除が可能な地域については解除を行うことも視野に入るものと思料します。その上で,なお一定の砂防施設の建設等が完了するまでは居住が危険な状態が続くと見込まれる地域の世帯については,認定がさらに一定期間継続することになりますが,当該世帯の住民は,最終的な住宅再建のために,支援法に基づく加算支援金(最大200万円)の支援を受けられることで,被災住民の復興の後押しになるものと考えます。
     以上,ぜひ長期避難世帯の速やかな認定を強くご要望いたします。
  2.  

  3. 災害救助法に基づく救助及び義援金などについての公平性・平等性の確保について
     前記1では,支援法に基づく長期避難世帯の早期認定についてご要望いたしましたが,同時にご要望したいのが,支援法以外の支援についても住家被害がある住民とそうではない住民との支援格差を縮小する施策の実施についてであります。
     たとえば,義援金の配分において,住家被害がない場合でも二次災害の危険等により帰還が困難な住民に対しては一定の配分を行うことや,また応急仮設住宅や災害公営住宅の入居をこうした住民に対しても認めること,さらには自治体独自の支援措置を行うなどの方法により,土石流被災エリアの住民とその周囲の住民との間の支援格差をなるべく小さくする方策を,被災者に対する公平・平等な対応の見地からお願いしたく存じます。
  4.  

  5. 住宅金融支援機構による災害復興住宅融資の利用要件緩和について
     住宅金融支援機構(以下,「貴機構」と申します。)が取り扱う自然災害の被災者のための災害復興住宅融資(高齢者特例を含む。以下,「復興融資」と申します。)は,過去の自然災害においても,被災者の住宅再建を支えるものとして活用されているところです。
     貴機構の復興融資については,平成28年9月16日付けプレスリリース「災害復興住宅融資の利用対象者の拡充について」に記載のとおり,従来の罹災証明書が交付された者に加えて,支援法の長期避難世帯に認定された世帯に対しても,住宅の建設資金又は購入資金に対して利用できるようになっております。しかしながら,復興融資への需要や支援の必要性に関し,長期避難世帯の認定を受けた住民と,認定は受けていないものの自然災害の原因により帰還困難な状態が続いている住民との間で差はないものと考えます。
     そのため,貴機構においては,本件災害において,今後仮に長期避難世帯の認定がない場合でも,自治体の指示等により自宅への帰還ができない状態におかれている住民については,復興融資が利用できるようお取り計らいいただきたく強く要望いたします。
  6.  

以上

 

(参考)

被災者生活再建支援法

(定義)

第二条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる

二 被災世帯 政令で定める自然災害により被害を受けた世帯であって次に掲げるものをいう。

ハ 当該自然災害により火砕流等による被害が発生する危険な状況が継続することその他の事由により,その居住する住宅が居住不能のものとなり,かつ,その状態が長期にわたり継続することが見込まれる世帯

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