【声明・決議・意見】 非弁行為に関する会長声明

1 判決の報告と背景

2025年10月23日、静岡地方裁判所は、静岡市内で探偵業を営んでいた者に対し、弁護士法第72条違反(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)により懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決を言い渡したところ、同判決は2025年11月6日の経過をもって確定しました。

この事案は、探偵業者が、探偵業務の中で得た不貞に関する情報を基に、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で慰謝料請求の示談交渉の代理など法律事務を業として行っていたというものです。

当会の調査により、この探偵業者は、示談交渉の相手方に不貞を認めさせ、非常に高額な示談金を支払わせる内容の示談書に署名指印させるなどして、示談交渉の相手方に看過しがたい不利益が生じさせたことが判明し、当会は、その行為の悪質性などを重く見て刑事告発を行いました。この刑事告発を端緒とした検察による捜査の結果、刑事事件として立件され、捜査の過程で明らかになった複数の同種行為のうち当会告発事案を含めた3件が起訴され、今回の判決に至ったものです。

 

2 非弁護士による法律事務の取扱い(非弁行為)が禁止されている趣旨

弁護士法第72条は、法律に特段の定めがない限り、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関し、代理等の法律事務を取り扱うことを業とすることはできないことを定めています(非弁行為の禁止)。

その趣旨は、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命(弁護士法第1条)の下に、弁護士法により、厳格な国家試験や長期間の実務研修の受講等が義務付けられ、職務の誠実適正な遂行に必要とされる厳格な規律に服すべきとされるなど諸般の措置が講じられているからこそ、広範囲にわたる多種多様な法的紛争の解決を職務とすることが認められているのであり、その広範な職務範囲に応じた試験・研修や厳格な規律が課されない弁護士以外の者に安易に法的紛争への介入を認めることは、依頼者・市民の利益を害するのみならず、健全な法秩序そのものを破壊する危険があるので、そのような被害、弊害の発生を防止することにあります。

このことは、広く市民の利益を守り、健全な法秩序を維持するために重要なルールであるため、非弁行為は刑罰の対象になります。

 

3 現状と当会の取組み

残念ながら、本件のような非弁行為は後を絶ちません。

しかし、社会秩序を維持するためには、法的紛争は法的ルールに則った解決が必要であり、法的ルールに則った解決に関与することができるのは上述のような試験等での能力担保や厳格な規律の下で職務を行う弁護士に限られるのが原則です。別途法律が認めない限り弁護士以外の者(いわゆる「非弁業者」等)による法的紛争への介入は本件のように重大な被害結果をもたらします。

 

当会は、改めて、市民の基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士に課せられた重大な使命を自覚し、市民の皆様から寄せられる信頼を維持すべく質の高い法的サービスの提供に努めることを誓うとともに、市民の権利・自由と法的秩序を侵害することとなる非弁行為の撲滅に向けて引き続き尽力し、悪質な非弁事案については刑事告発も含めて厳正に対処していく所存です。

 

2025年(令和7年)12月18日
静岡県弁護士会
会長 村松 奈緒美

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