臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明 

当会は、本年1月30日付で「法制審議会の議論に委ねることなく、議員立法により速やかに適切な刑事再審法改正を実現することを求める会長声明」を発し、再審法(刑事訴訟法第4編)の改正には一刻の猶予もなく再審法改正を速やかに実現すべきこと、改正内容としては①証拠開示の制度化、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止などが重要であること、法制審議会の議論に委ねると時間がかかるだけでなく内容が骨抜きにされるおそれがあり「えん罪被害者の速やかな救済に資するもの」とならないおそれが高いこと、よって、超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を実現する議員連盟」(再審議連)の動きを歓迎し国会に対して議員立法により速やかに適切な内容の再審法改正を実現することを求めた。

その後、本年6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が提出され(第217回国会衆法第61号)、衆議院法務委員会に付託されて、現在、閉会中審査となっている。

本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めるものであり、これは、当会がこれまで求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、高く評価できる。

再審議連は、昨年3月に発足して以来、全国会議員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それを踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきたが、今般、それが本法案として結実したものであり、当会は、再審議連をはじめとする関係者のこの間の努力に深い敬意を表するものである。

ところで、国会議員の一部には、「基本法である刑事訴訟法の改正は法制審議会に任せるべきである」という意見が見受けられ、そのこともあってか、自由民主党、公明党及び日本維新の会は、本法案の共同提出には加わらなかった。

しかし、法制審議会の刑事法関連部会の事務局は法務省刑事局が務めて委員の人選も行っているが、法務省刑事局の主な構成員は検察官である。これに対して、証拠開示や検察官の不服申立ての禁止といった当会が求める再審法改正の内容は、検察官に対して義務を課し、その権限を抑制するものであるため、法制審議会の刑事法関連部会の審議は、必ずしも公正中立さが担保されるとは限らない。検察官が審議運営に深くかかわる法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「法制審再審部会」という。)が再審法改正において主導的な役割を果たすことは適切でない。 実際、本年4月から開始された法制審再審部会での審議をみると、再審手続が「非常」救済手続であることを殊更に強調し、再審における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する不服申立てを禁止することに消極的な意見が述べられるなど、答申の内容は本法案と比べて極めて不十分なものとなることが危惧される。また、法制審議会で早期のとりまとめを目指すとしても、その法制化までには時間がかかることは明らかで、改正が速やかに進む目処は立っていないと言わざるを得ない。

再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。この間、静岡の「袴田事件」(逮捕から58年で昨年10月に無罪判決確定)や福井女子中学生殺人事件(逮捕から38年で本年7月18日無罪判決)などの著名えん罪事件を通じて、再審法の不備が明らかとなっており、再審法改正を求める世論も、かつてない高まりを見せている。静岡県で発生し、1989年に無罪が確定した島田死刑再審事件でも、赤堀さんの逮捕から無罪確定までは34年余がかかっているのである。にもかかわらず、法制審再審部会での審議は、再審事件の実情やえん罪被害の救済が遅れた原因を直視したものとは言い難く、かえってえん罪被害の救済を遅らせることにもなりかねない。

えん罪被害者のための再審法改正を実現するためには、「国の唯一の立法機関」(憲法第41条)である国会において、あるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。

よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋にも予定されている臨時国会において本法案を可決・成立させることを求めるものである。

2025年(令和7年)7月23日
静岡県弁護士会
会長 村松 奈緒美

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