【声明・決議・意見】 国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

2024年(令和6年)9月26日に静岡地方裁判所にて無罪判決が言い渡された袴田事件は、過去の話ではありません。近年も、全国的に多数のえん罪事件が後を絶ちません。これらの事件を通じて、弁護士による刑事弁護活動の重要性があらためて認識されています。

2025年(令和7年)7月、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の取りまとめ報告書が作成されました。近年では9割近い被疑者が捜査段階において国選弁護人を選任し、ほぼ全ての事件において24時間以内に国選弁護人が指名されている等、国選弁護人の果たす役割の重要性が確認されています。

 

当会においても、国選弁護制度が、被疑者・被告人の権利擁護のため、憲法上必須の制度であるとの認識の下、日本弁護士連合会と当会の予算で、当番弁護士の日当支援、当番弁護士遠隔地移動費用の援助制度、国選弁護人・国選付添人の謄写費用の援助制度、罪に問われた障害者等に対する刑事弁護費用等の援助制度等を創設し、時代の進展に合わせ高度化する刑事弁護活動を市民が費用負担の心配なく享受できる体制の拡充に注力してきました。

しかし、これらの諸措置は、無罪推定の原則が憲法上保障される我が国において、本来であれば全て国費によるべきものです。今後新たに必要となる刑事弁護活動を含めて、国費で賄われることを前提に、これを支える確固とした予算措置の議論が必要不可欠となります。

そして、かかる議論の中で、現行の国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用が極めて不十分であることの抜本的な解決も図られるべきです。

すなわち、国選弁護事件の平均的な報酬は、捜査・公判段階共に、適正な弁護活動を行うために必要な対価としては非常に低額な状態が続いています。

当会の実情としても、例えば浜松支部における要通訳事件の事件数の多さは静岡支部や沼津支部と比較して突出しています。要通訳事件では、通訳人との調整が必要になり、弁護人は、接見のために、他の受任事件の予定を変更するなど影響を受けることも少なくありません。要通訳事件が否認事件だった場合には、連日長時間の接見も必要となります。通訳を要しない事件と比較した負担増は明らかです。また、静岡県は東西に155キロの長さに渡っているところ、女子の留置施設は県内3か所しかありません。留置施設も県内各地に散在し接見に要する遠距離移動の負担は大きなものがあります。このような実情に照らすと、現在の国選弁護の報酬体系は、その負担に見合うものとは到底いえない状況です。さらに言えば、このままでは国選弁護人の担い手自体が将来にわたり減少していくことも懸念されます。それは刑事弁護そのものの危機につながります。

 

近時、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定で不正行為が発覚しましたが、本来、捜査機関側の鑑定の信用性を争うべき事案は多く、数々のえん罪事件でも弁護側の科学的鑑定が無罪主張の柱となってきました。しかし、現行の国選弁護費用体系では、当事者鑑定の費用は賄われません。当会では、国選弁護人の活動が制約されないよう、当事者鑑定の費用の援助制度を創設しています。しかし、現行の国選弁護費用体系では、当事者鑑定のみならず、本来行われるべき多くの弁護活動の費用が賄われず、捜査機関が潤沢な資金を有することに比べて、極めて不公平なものとなっています。その結果、えん罪防止に鋭意努めるべき国選弁護人の活動が相当制約されています。

そもそも、国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少な額で推移しています。膨張を続ける100兆円規模の国家予算に占める割合も年々低下しており、人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れているという他ありません。

 

よって、当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求めます。

 

2026年(令和8年)2月25日
静岡県弁護士会
会長 村松 奈緒美

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