2024年(令和6年)9月26日、いわゆる袴田事件の再審公判で、静岡地方裁判所は、袴田巖さんに無罪判決を言い渡しました(同年10月9日確定)。
この無罪判決は、①袴田さんの自白、②いわゆる5点の衣類、③5点の衣類の1つである鉄紺色ズボンの共布とされる端切れ、の3点について、捜査機関による「ねつ造」を認定しました。
えん罪は、国家による最大の人権侵害の一つであり、個人の尊厳を究極の価値とする日本国憲法のもとでは、えん罪被害は、決してあってはならないものです。
捜査機関による証拠の「ねつ造」は、えん罪被害を作り出すものであり、決して許されない行為です。ところが、最近も、佐賀県警察において、長期にわたり、実際には実施していないDNA型鑑定を実施したものとして報告する行為が繰り返されていたことが判明しました。当会においても、警察官が虚偽の事実を記載した捜査報告書を示して逮捕令状を請求した事案に関し、本年5月1日付で声明を発出したところです(「再び違法収集証拠排除法則による無罪判決がなされたことを受けて、静岡県警察及び静岡地方検察庁に対し再度強く抗議する会長声明」)。
当会は、袴田巖さんに対する無罪判決から1年を迎えた今日、改めて、捜査機関による証拠の「ねつ造」は決して許されないという明白な規範を確認すると共に、捜査機関に対して、二度と証拠を「ねつ造」しない強い意思の下で、捜査の適正を確保するよう強く求めます。
そして、袴田さんの無罪判決までには、逮捕から58年という気の遠くなるような時間がかかりました。
本年7月18日に言い渡された、いわゆる福井女子中学生殺人事件の前川彰司さんに対する無罪判決(同年8月1日確定)も、逮捕から38年の時間がかかりました。静岡県で発生し、1989年に無罪が確定した島田死刑再審事件でも、赤堀さんの逮捕から無罪確定までは34年余がかかっています。
えん罪を晴らすために、これほどの長い時間がかかることは、基本的人権を尊重する日本国憲法の下で許されるものではありません。
再審手続の長期化の一因である証拠開示に関しては、袴田さんへの無罪判決の後も、上記福井女子中学生殺人事件や、本年7月17日付で国家賠償請求判決が出たいわゆる湖東記念病院事件において、当該事件の無罪判断へ重大な影響を与えるうる証拠が長らく捜査機関だけに保有されていたことが明らかになり、大きな問題となりました。
袴田さんに対する無罪判決では、第2次再審請求審でようやく検察が開示した証拠が、上記「ねつ造」の認定において重要な役割を果たしました。
万が一えん罪が発生した場合に、えん罪被害の早期回復を図るためには、現行の刑事訴訟法の再審規定(再審法)に対し、①再審請求審における証拠開示の制度化、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止などの改正が必須です。
超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を実現する議員連盟」が衆議院に提出し、現在、衆議院法務委員会に付託されている「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」といいます)は、上記①、②など、えん罪被害の早期回復のために必要な改正点を適切に反映した法案です。
当会は、改めて、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、可決・成立させることを強く求めます。
静岡県弁護士会
会長 村松 奈緒美
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